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PRP療法について
2019.07.09
PRP療法のまとめ
変形性関節炎の治療方法の1つとして、多血小板血漿 (Platelet Rich Plasma : PRP) 療法があります。PRP療法は、人医療領域では普及しはじめており、日本でも治療の認可がおりています。変形性関節症をはじめとする慢性疾患で外科手術が実施できない場合に治療する選択肢として注目されています。近年では、獣医領域においても導入されつつあり、最先端の治療法として研究されています。
PRP療法は自分の血液成分を使用するため、安全性が高く血液のみでPRPを採取できることが特徴です。関節炎による痛みを軽減することや機能改善、損傷した骨や軟骨を再生の効果が期待されています。外科治療の代替にはなりませんが慢性期で根本治療がない場合、外科治療の補助として実施することが多いです。
PRP療法は始まったばかりの治療法ですので推奨投与量や投与間隔、投与回数など最適な治療プロトコールはまた確立されておりません。今後、さらなる研究が行われることで獣医療の中でPRPが発展していくことが予想されます。
目次
PRP療法ってなに?
PRPは、Platelet Rich Plasmaの略で新鮮な血液を採取し、それを遠心分離することによって得られる血漿を含む高濃度の自己濃縮血小板のことを指します。PRPは、血液を凝固する凝固系活性化や体の免疫力を上げる免疫活性化作用だけでなく、成長因子の分泌などを介して、直接的または間接的に組織保護作用を示す非常に有益な性質を持ちます。
PRP療法はどんな効果があるの?
PRPはサイトカインの一種である成長因子を豊富に含んでおり、細胞の増殖や分化の促進や傷ついた組織の治癒をすることが報告されています。血漿中にあるこれらの成長因子も濃縮されて含むため、PRPは血小板のみを濃縮したものよりも効果的であるとされています。
また、一口にPRPといっても血小板が含まれている量やPRPに含まれている白血球の割合、それらの効力を高めるための活性化剤の種類など様々な要因によってもPRPの効果は変動します。同じPRPでも血液採取方法やその後の処理の方法が悪いと十分な効果を発揮しないことが多いです。(PRPの精製時に血小板自体が損傷したり、生存不能となったりした場合には、これらの有益な生物活性成長因子を分泌しないため、このような効果が期待できない可能性があるので注意が必要です。)
人で認可されているPRPのキットを使用することが、動物でも効果のあるPRPを採取するためには必要です。
どのようにしてPRPが作られるの?
PRP療法は、自身から採取した血液を用いるため病原体伝達や免疫学的拒絶反応のリスクがほとんどないといわれています。
また、関節内のヒアルロン酸療法などと組み合わせることができるのも利点の1つです。損傷した部位の組織修復を目的とした場合、正常の血小板を4~5倍濃縮したPRPが効果的ですが、更に濃縮して高濃度で使用したら効果が高まるかどうかはまだ研究段階でわかっていません。
PRPの投与方法はどのやって投与するの?
PRPにおける成長因子は、血液中の凝固反応が活性化(血が止まろうとする反応)がはじまるとすぐに血小板から放出されます。そのため、PRPは血液を採血し、遠心分離により精製した直後に静脈より投与する必要があるとされています。
血小板が活性化すると、10分以内に70%の成長因子が放出され、1時間以内に95%の成長因子の顆粒が分泌され、傷害している組織にある受容体に結合することで、内因性のシグナルタンパク質の活性化を誘導し、骨形成、コラーゲン合成など様々な物質を促進することがわかっています。
PRP由来の成長因子は細胞の中や核の中に入ることはないため、PRP療法を行うことで腫瘍化するなどの能力は基本的にはないとされています。
そもそも血小板の機能とは?
血液成分の一つである血小板は、何らかの損傷により血管が傷ついたとき、損傷部位に迅速に付着することで、出血を抑えて、損傷した部位に対して修復を開始する役割を持つことが知られています。
血小板は、その小さな構造の中にα顆粒と濃染顆粒という2種類の微細な顆粒を含んでいます。α顆粒は、止血に必要なタンパク質、血小板を活性化させるための成長因子や損傷部位に素早く正確にくっつくための接着タンパクなどを貯蔵しています。一方濃染顆粒は、カルシウム、ヒスタミン、ドーパミンなどの生理活性物質と共に、血小板をより多く損傷部位に集めることやボロボロになってしまった血管の再生を促進する生理活性因子を貯蔵しています。
体内の血管は、何らかの要因で血管を構成している内皮細胞が損傷を受けると、vWFという血管の表面活性化因子が露出します。ここに血液中を流れる血小板が触れると、血小板の中のα顆粒や濃染顆粒から様々な因子を放出し、血を止めるように誘導します。これらの止血因子がフィブリン(血小板がくっつくための糊の役割をする成分)と相互作用することで、損傷した血管の修復および新しい血管の再構築のために、傷ついた内皮を封鎖するプラグのようなものを形成します。
切り傷などの外傷以外にも細菌感染やおよびウイルス感染が生じた場合にも、血小板が活性化してそれらの感染源に抵抗するということが知られています。さらに血小板は、細菌やウイルスがもっているタンパク質に直接的または間接的に免疫応答に関与し、細菌を貪食する好中球の血管の外組織への誘導を強める作用や、他の免疫細胞との相互作用を行うことで、細菌感染の広がりを抑える作用を持ちます。
すなわち血小板は、凝固の活性化による止血作用のほかに、創傷治癒、炎症、傷口を治癒する経路の活性化、細菌の繁殖を抑える抗菌因子の放出など、体のバランスを保つために重要な役割を果たしています。
PRP由来のサイトカインはどんなものがあるの?
PRPは、前述したように多くの成長因子および増殖因子を含んでおり、細胞の増殖や分化に関与し、組織の再生を促します。これらの成長因子の多くは、損傷した組織に対する再生の初期段階において非常に重要な役割を果たすと考えられています。PRP由来の成長因子は多数あるものの、どの成長因子がどの治癒過程に関与しており、どのような治癒効果に寄与しているかは不明であるとされています。
・インスリン様成長因子(Insulin-like growth factors:IGF-1)
IGF-1は、組織の修復時に活躍する線維芽細胞の増殖や損傷部位にいち早くかけつける作用を刺激し、筋肉と骨との間を橋渡しすることで、より迅速な筋骨格の修復を促進する働きをもつ因子です。この因子はさらに筋肉のもととなる細胞の増殖を刺激し、筋骨格の修復を促進する可能性があるとされているが、PRP由来IGFの直接的な役割は不明とされている。
・トランスフォーミング増殖因子(Transforming growth factor TGF-1,2、TGF-ß)
PRPから分泌される最も豊富な成長因子のTGF-ßは、腱などの治癒促進に関与しています。血液中のTGF-ß濃度上昇は、骨や筋肉の損傷部位の骨形成およびコラーゲン分泌をもたらし、迅速な骨折の治癒をもたらすとされています。また、将来は骨となる脂肪由来幹細胞分化を刺激し、骨折治癒にも関与します。
その他にも様々な成長因子が骨形成や血管新生に関与しており、骨治癒促進に有用である骨へのカルシウム沈着誘導や局所組織代謝や組織修復プロセスを促進します。
関節に対するPRP療法の効果はありますか?
近年、人の医療では、変形性関節症に対するPRP療法が注目されています。
PRPに含まれる成長因子は、変形性関節症の病因に関与するサイトカインの一部の活性化を抑制し、関節内の炎症性変化を抑制する働きを持つといわれています。人の整形外科治療において、膝関節へのPRPの注入は積極的に導入されており、長い間継続する痛みを緩和し、徐々に悪化していくことを遅らせることが可能であったともいわれています。またPRPによる変形性関節症の痛みのコントロールは、関節炎の程度が軽度な人も重症な人もその程度に関係なく、一定期間続く効果があるとされています。
PRPは痛みを和らげることや関節の動きをスムーズにするだけでなく、ダメージを受けた骨や軟骨の部分を軽減する作用もあります。変形性関節症の進行に関与する体の中のサイトカインと呼ばれる因子を抑制することにより、軟骨のさらなる損傷を軽減する働きを持っています。
変形性関節症に対するPRP療法において最も重要なことは、骨や軟骨の再生を促すことです。PRPが多量に含む成長因子は軟骨細胞を刺激し、軟骨細胞の増殖および軟骨基質の分泌を促進します。関節炎モデルマウスを使用した実験でも、PRP投与により、軟骨にとって重要な成分であるプロテオグリカンやコラーゲンなどの産生を促進もたらしたことが報告されています。
PRP療法とその応用範囲
PRPは変形性関節症の治療以外にも、様々な分野で応用されています。1987年に口腔領域の骨欠損に対する早期の組織修復を目的として使用されたことを皮切りに、美容整形手術、歯周病、脊髄手術、心臓バイパス手術など主として組織再生を目的に応用されています。現在では、人医療領域の腹腔内外科手術後に、ゲル化したPRPを切開箇所に塗布することで術後出血の予防や早期創傷治癒に有用であることが証明されました。また、これらの手術中の切開部位に関すること以外にも術後に起こりうる血栓症、肺炎、尿路感染症、筋肉萎縮などの合併症を軽減することも示唆されています。
最近では、整形外科およびスポーツ医学においても、PRP療法は注目されています。
腱や靭帯の慢性損傷の場合には、PRPの投与により成長因子が血管新生刺激を促すことで、タンパク質および成長因子を介した反復性の炎症を引き起こし、治癒を促進させることが示されています。しかし、犬の前十字靭帯損傷のように変性(靭帯の劣化)を伴い断裂したものに対する効果は少ないと考えられます。逆に股関節形成不全、手根関節や足根関節などの慢性的な関節炎への効果が犬では期待されています 。