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犬と猫の骨折の原因・症状・治療について

2019.07.05

骨折のまとめ

骨折は、「骨の連続性が部分的に、あるいは完全に断たれた状態」と定義されます。大型犬や猫では交通事故や高所からの落下など、背景に非日常的な原因が多いですが、小型犬の場合にはソファやベッドからの落下、抱っこからの着地に失敗したなど、日常生活の中にも骨折のリスクが潜んでいます。骨折をしてしまった場合、人間と比較して安静を保つことが難しい犬・猫の場合には、外科治療が必要となります。

骨折とは

 

「骨折」は多くの方に馴染みの多い病気かと思いますが、厳密には「骨の連続性が部分的に、あるいは完全に断たれた状態」と定義されます。骨は力学的には「粘弾性体(ねんだんせいたい)」と呼ばれる性質を持っています。これはある程度までの負荷であれば一時的に形が変わるだけですみ、負荷解除されれば元に戻るが、耐えられる以上の負荷がかかってしまうと塑性変形(そせいへんけい)、すなわち元に戻れないレベルの変形を起こしてしまう物質です。骨においては、この後者の状態が骨折ということになります。

 

骨折の症状

 

どの部分の骨がどの程度折れているかにもよりますが、最も一般的なものは肢をあげてしまう、触ると痛がる、といった症状です。指先などの小さな骨の骨折の場合には、足を庇いながらも地面につけて歩くことができるかもしれません。また、頭蓋骨や背骨など神経に近い部分の骨が骨折してしまった場合には、手足の麻痺などが起こることもあります。

 

骨折の原因

 

骨折を原因によって分類した場合、

 

・(外傷性)骨折
いわゆる一般的な骨折で、骨が耐えられる以上の大きな負荷がかかることでおきる骨折です。大きな負荷と言っても、小さい動物の場合にはソファやベッドから飛び降りてしまった、あるいは飼い主さんが踏んでしまったなど、日常生活においても起こるので注意が必要です。海外の報告では、75〜80%の骨折が交通事故によって引き起こされていたという報告もありますが、小型犬の飼育頭数の多い日本では当てはまらないかもしれません。

 

・病的骨折
健康でない状態の骨が、通常では折れない程度の負荷で骨折してしまうことを指します。人間の場合は加齢等に伴う骨粗鬆(症)に伴って起きることが多いようですが、動物の場合は、骨を犯すタイプの腫瘍(いわゆる癌)によって起きることが多いです。高齢の大型犬の場合や、骨折の原因が不明な場合はこのタイプの骨折に特に注意が必要です。

 

・疲労骨折
一度に大きな負荷がかかるのではなく、反復的な負荷が骨の再生能力よりも早い頻度で骨にダメージを与えた時に起こります。犬・猫ではそれほど一般的ではないとされていますが、激しい運動負荷のかかるスポーツ競技に参加している犬では注意が必要です。特に手足の小さな骨で起きてくることが多いようです。最初は微細な亀裂からスタート(不完全骨折)し、徐々に明らかな骨折(完全骨折)に移行します。

 

その他にも、骨の折れ方(骨折線の入り方)や皮膚との関係による骨折の分類(開放骨折と閉鎖骨折)などがあります。

 

成長期特有の骨折の分類についてもお話しします。
成長期のワンちゃんの骨は、弾力性があり、成犬と比べると骨が折れにくい性質です。成長期特有の骨折に『若木骨折』があります。これは、乾いた割り箸がパキッと折れるのではなくて、水々しい若い枝がしなって折れにくいのと同じです。若い枝は、薄皮一枚で繋がっていたりしますよね?この薄皮が、骨でいう『骨膜』に当たります。成長期の骨膜が厚いのも特徴的です。また、成長期特有の骨折に『成長板骨折』があります。成長板とは、骨が作られる最も脆弱で柔らかい場所です。成長板に障害があると、骨の変形や関節の不癒合の原因に繋がるため早期に診断し、早期に治療してあげることが大切です。

 

骨折になりやすいのは

 

当然ながら、交通事故などの大きな力が加わった場合にはどんな犬・猫でも骨折してしまう可能性があります。しかし、小型犬の場合には、ソファの登り下りや抱っこから降ろしたりする等の人間からすればそれほど大きくないと感じる力でも骨折してしまいます。また、猫の場合には高いところからの落下による骨折(High-rise syndrome:”高層症候群”)も一般的ですので、建物の2階以上で猫を飼育している、あるいは猫が出入りできる環境の場合には注意した方が良いです。

 

また、猫の場合には高いところからの落下による骨折(英語ではHigh-rise syndrome:直訳すると”高層症候群”という名前までついています)も一般的ですので、建物の2階以上で猫を飼育している、あるいは猫が出入りできる環境の場合には注意した方が良いと思われます。

 

骨折の診断方法

 

大きな骨の骨折は比較的診断が容易です。これは、著しい機能障害(全く足をつかない)に加え、骨折部の周辺には腫れや激しい痛み、あるいは異常な可動といった目立つ症状を伴うことが多いためです。そして骨折を疑った場合にはレントゲン検査へと進みます。骨(特にその外側の部分、皮質骨)はレントゲンの画像では白く見えるため、そのラインが連続しているかどうかで容易に骨折の確定診断を得ることができます。

 

一方、種子骨と呼ばれる小さな骨の骨折や、幼若期の成長板骨折(成長板はレントゲンで黒く見える)の診断は、難しいことがあります。このような場合は、丁寧な触診と、その部分に焦点を絞ったレントゲンの撮影、いろいろな角度からのストレスを加えた撮影が必要になります。

 

CT撮影が必要となることもあります。CT検査では立体的に骨折病変を描出でき、治療計画にも役立てることができます。

 

骨折の治療法

 

保存的な(手術を行わない)治療法、外科的な(手術を行う)治療法に分けて解説を行います。

 

・保存的な治療
人間が骨折した場合、まずは手術というよりもギプスをして安静、というイメージをもたれる方が多いかもしれません。このような治療法を保存的な治療、あるいは非観血的な治療と呼びます。もちろん犬・猫でも重要な治療法で、この治療によって治癒が見込める骨折もありますが、人間以上に注意した管理が必要となります。例えば、動物の場合は骨が癒合(くっつく)するまで安静にしようとは考えてくれないため、暴れたり動いたりしないよう飼い主が運動を制限してあげる必要があります。また、巻いているギプスや包帯をかじったり取ったりしない様に管理し、これらを巻いていることによる皮膚の障害(皮膚炎やうっ血)にも注意が必要です。

 

上腕骨・大腿骨の骨折は、周りの筋肉が多い上に付け根が胴体と接しているため、効果的な包帯を適応することが困難であり、一般的には推奨されていません。

 

・外科的な治療
【プレート固定】
折れた骨に金属製の板(プレート)をネジ(スクリュー)で固定して治療する方法です。骨折部にかかるあらゆる力に対抗することができ、様々な骨折で適応できる治療方法です。従来のプレート(DCPプレート)は、骨の血行を阻害し、骨が痩せてしまう現象(ストレスシールディング)が問題でしたが、使用方法を熟知し適応することで、それらの障害を回避することが可能です。DCPプレートは、ネジをプレートに押し付け、その摩擦力で安定化をえていましたが、近年ではロッキングプレート(LCPプレート)が一般的になってきています。このプレートは、ネジ穴とネジの頭の部分が固定されることでより強い固定力を得ています。

 

【髄内ピン(による治療)】
骨の中心部分(髄腔)に金属製の棒を入れて治療する方法です。ただし、中心に一本の棒を通すだけでは、骨折部分にかかる様々な力全てには対抗できないため(例えば骨同士が回転してしまうなど)、一部の骨折を除いては他の方法と組み合わせて適応されることが一般的です。特に小型犬種の橈尺骨骨折の遠位(先端)では適応はしないほうが良いと言われています(AO VET)

 

【整形外科ワイヤー(による治療)】
様々な太さの金属製のワイヤーを、骨やインプラントに巻きつけることで骨折部の安定化をはかる方法です。こちらも固定力は限られるため、単一の手技として適応されることは稀です。

 

【創外固定法】
皮膚の外から金属製の棒(ピン)を刺入し、それらを棒(コネクティングロッド)で連結させ、骨折部を安定化させる方法です。皮膚の裂傷を伴う開放骨折や患部に感染を併発している場合にも適応できます。
手術後、骨の癒合度合いを見ながら、麻酔をかけなくても固定強度を徐々に落とすことができるなど、他の手技にはないユニークな利点を有しています。一方、皮膚とピンの境界で必ず起きる廃液を処理する必要や体外に金属が飛びでているといった欠点もあります。

 

これらは代表例であり、それぞれのバリエーションを含めるとさらに多様な手術器具が存在します。それぞれの固定方法が一長一短を有しており、一概にどの方法が良いとは言えません。それぞれの年齢や体格、受傷の経緯や経過時間等、さらには性格・活動性を考え、その動物にあった治療方法を選択することが大切です。

 

飼い主様ができる応急処置

 

残念ながら適切な応急処置は困難であると言えます。人間のように包帯やギプス等をしてあげようと思っても、折れた直後は非常に強い痛みを感じており、飼い主さんだけで適切に包帯を設置することはとても困難です。受傷後は動物もパニックになっており、飼い主さんに攻撃的な行動をしてしまうこともあります。まず安静にして可能な限り早めに動物病院を受診させてあげましょう。

 

成長期においては、突然足を引きずって歩くようになった際に、上記に示した若木骨折もあるため『歩いているから大丈夫』『足を曲げ伸ばしできるから大丈夫』と自己判断しないことが大切です。

 

骨折を防ぐ方法

 

一方、小型犬(トイ犬種)の骨折はソファーから飛び降りた、抱っこから落ちてしまう、興奮してリードに絡まってしまう、などの比較的小さな外力でも骨折してしまいますので、完全に防ぐことは難しいかもしれません。その子たちにそう言った性質があることを理解して、日々気をつけて管理していくことで発生率を下げることはできるでしょう。