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犬の股関節形成不全の原因・症状・治療法について

2019.07.09

股関節形成不全のまとめ

股関節形成不全は犬では特に大型犬に多く見られ、日常的にもよくみられる運動器疾患です。遺伝性疾患と言われていて、3〜4ヶ月齢の発育期から進行し、股関節の不安定性と緩みが見られます。軽度な症状として、ジャンプするのを嫌がったり、階段を登りたがらない様子が見られます。さらに進行していくと、後ろ足の筋肉が落ち、前足に頼った歩き方をします。前足に頼った歩き方では、体重を前にかけようとするので。「でんぐり返し」をするような歩き方になります。

股関節の緩みに伴い、関節炎の症状が進行した中高齢のワンちゃんでは、保存的な治療でコントロールできることが知られており、運動制限や体重管理、抗炎症剤の投与、理学療法が必要となります。保存的治療でコントロールが困難な場合には、外科的手術の実施も検討する必要があります。

1歳未満で見られる急な股関節の痛みでは、早期に股関節形成不全と診断し、そのワンちゃんに合った手術をすることで股関節を温存でき、股関節の機能を維持することができます。今回は、この股関節形成不全について私たちが理解するべきことを説明いたします。

股関節形成不全とは

 

股関節は、大腿骨頭(ボール)と寛骨臼(ソケット)がはまり、球関節を作ります。ワンちゃんは四足歩行のため私たち人間と比べ、股関節が浅くできていて、脱臼しやすい構造です。人間は二足歩行になり、内臓を骨盤で支えなくてはいけなくなり、骨盤が発達し、寛骨臼が深くなり、股関節周りの血液供給や靭帯が犬よりも発達したと言われています。

 

形成不全(Dysplasia)という言葉はギリシャ語由来の言葉で「異常」ということを意味します。股関節形成不全は、その名の通り股関節が成長の過程でうまく発達せず、異常をきたしている状態のことを指します。股関節形成不全は一般的に遺伝性疾患として考えられており、95%で左右の両側に発生することが知られています。股関節を支える寛骨や大腿骨頭の成長不良とこれらを支える結合組織(すなわち筋肉などの軟部組織)の異常によって生じるといわれています。

 

股関節形成不全の原因

 

股関節形成不全は70%が遺伝的要因、30%が環境要因といわれています。寛骨臼が浅くなっていることや、寛骨臼にぴったりとはまるはずの大体骨頭やそれを支える大腿骨頚部と呼ばれる部分の角度異常などが指摘されています。また骨の問題だけでなく、不十分な筋肉量やお尻の部分を支える臀筋群などを含めた後肢の異常な関係性も要因の1つであるとされています。骨や筋肉のように骨格を形成する構造以外にも異常な性ホルモンや必須ビタミン不足、運動不足による肥満や過度な成長スピードなど生活習慣などによっても引き起こされる可能性があると言われています。

 

原因は記載したような要因が単独あるいは複数以上が複雑に関与することで発症すると言われています。股関節形成不全を生じさせる明確な遺伝子は現在のところ、解明さていません。股関節形成不全の原因は何であれ、関節の緩みは、関節を支える袋(関節包)に大きな力をかけ始め、周囲の結合組織を刺激することによって炎症を誘発するようになります。この炎症によって関節が腫れてくることで関節の動きの制限や関節のこわばりの原因となると言われています。

 

股関節形成不全ってどんな症状

 

股関節形成不全は、股関節の緩みのある成長期(1歳未満)の子犬と股関節形成不全による関節炎のある成犬では、診断の仕方、治療に対する考え方が異なります。

成長期(1歳未満)の子犬の症状を以下にあげます。関節の形成が緩いため大腿骨頭と管骨級がぶつかってしまいます。そのため以下のような症状がでます。

 

・立ちたがらない、歩きたがらない、走りたがらない
・階段を痛くて登れない、登りたがらない
・立った時の姿勢で、後ろ足の足先の間隔が狭くなります『Base Narrow』 
・腰を振って歩く『monroe walk』
・うさぎ跳び『bunny hopping』:両方の後ろ足を揃えて跳ねて歩く
・コツコツと感じる股関節『clunking hip』
・後ろからお尻を見たときに普通のワンちゃんは『ハの字』ですが、四角い腰『Boxy hip』に見える
・後ろ足の筋肉、特に大腿二頭筋が細くなる
・すぐに座り込み歩けない

 

犬を初めて飼った場合などでは、飼い主が歩き方の異変に気づいてないこともあります。周りのワンちゃんと比べ、違和感を感じた場合は、ワクチン接種時などに獣医さんに聞いてみましょう。

 

股関節形成不全による関節炎のある成犬では関節の緩みにしたがって、関節周囲に関節炎が生じるため、子犬の時よりも股関節の違和感は減ることが多いです。しかし関節の形状が異常であるため、

 

・立った時の姿勢で、後ろ足の足先の間隔が狭くなります『Base Narrow』 
・腰を振って歩く『monroe walk』
・うさぎ跳び『bunny hopping』:両方の後ろ足を揃えて跳ねて歩く
・コツコツと感じる股関節『clunking hip』
・後ろからお尻を見たときに普通のワンちゃんは『ハの字』ですが、四角い腰『Boxy hip』に見える
・後ろ足の筋肉、特に大腿二頭筋が細くなる

 

といった症状は残りますが、違和感や痛みは軽減することがおおいです。しかしこの成犬の時期にしっかりした体重管理や関節に負担のない運動を行なっていかないと、老齢になって症状が重度になることがあります。

 

股関節形成不全の場合には早期に正確な診断を行い、それに向けた生活を送っていくことが重要となります。

 

股関節形成不全の診断方法

 

股関節形成不全の診断には、触診やレントゲン検査、神経学的検査など総合的な診断と除外診断を組み合わせることが必要となってきます。これは、成長期に罹患する可能性のある股関節形成不全以外の疾患を除外するために行います。

 

触診では、股関節の筋肉量に左右差が無いかどうか、股関節の緩みがないかどうか(オルトラニー試験)、歩様や起立姿勢に異常が無いかどうか、股関節の可動域に異常が無いかどうか、腰椎や膝関節、足根関節などその他の関節に異常が無いかどうかなどをチェックします。

 

レントゲン検査では、股関節の緩みの程度として股関節亜脱臼があるか、大腿骨頭(ボール)に対して寛骨臼(ソケット)の被覆率はどうか、関節炎があるかないか、を確認していきます。

 

診断時の月齢と関節炎所見の有無は、治療方法が異なっていくため、とても大切です。診断だけでなく、手術計画を立てるためにも熟知した獣医師による画像検査が最終的に必要になります。

 

股関節形成不全の治療法(保存療法)

 

中高齢になり股関節形成不全による関節炎が進行したワンちゃんの多くは、保存療法にて良好な成績が得られています。

 

前述したように股関節形成不全による症状は、股関節の緩みによって引き起こされた炎症による痛みからくるものです。そのため、まず初めに行うことは体重管理と運動制限、鎮痛剤の投与です。体重管理は、関節にかかる過度な負荷を制御し、軽減させることを目的とします。どの程度の減量が必要かは、犬種や動物のサイズ、現在どれくらい体重過多になっているかなどによって判断する必要がありますので、獣医師の診察を受ける必要があります。

 

適正体重になってから少しずつ運動量を増やします。運動開始時は、リードをもってゆっくりと歩行させることが重要となります。四肢をゆっくりと負重させることで各肢に適切な負荷をかけることができると言われています。平坦な道よりも勾配のついた坂道をゆっくり登ることで、前足より後ろ足の筋肉量を増やせます。また、抗炎症薬の使用も一般的であり、炎症を抑えることで痛みが緩和されます。

 

股関節形成不全の治療法(外科療法)

 

股関節の緩みのある若いワンちゃんでは、なるべく早期に股関節形成不全と診断し、関節炎を進行させないようにすることが大切です。股関節を温存できる若齢期恥骨結合固定術と二点骨切術、人工関節により股関節の機能を温存できる股関節全置換術、痛みの原因である大腿骨頭を除去する大腿骨頭骨頸切除術などがあります。

 

飼い主さんとよく相談して、そのワンちゃんに合った時期に、最善の手術を計画していきます。代表的な手術方法をいくつかご紹介いたします。

 

・若齢時恥骨結合固定術(JPS)
成長期である10週から18週齢の時期に恥骨結合を電気メスであえて損傷させます。骨盤腹側に限局的な成長障害を起こすことで、寛骨臼を腹側転回させ大腿骨頭の被覆率をあげる手術になります。

 

・二点骨盤骨切術(三点骨盤骨切り術)
骨盤の骨である腸骨と坐骨の二点を切って寛骨臼に大腿骨頭が嵌まり込むようにする手術です。さらに坐骨を切った場合には三点骨切りとなります。生後8−10か月齢で股関節に関節炎が出ていないものが適応となります。

 

・股関節全置換術
形成不全を起こしている股関節を人工股関節に置換する方法です。股関節全置換術では、大腿骨頭の切除と大腿骨骨幹部のドリリングを行い、人工骨頭を挿入する手術です。これらを固定するために、特別な骨セメントやスクリュー、セメントレスシステムなどが用いられます。また骨盤部分にもカップという人工骨頭の受け皿も設置します。股関節全置換術は、全ての症例に適用されるわけではなく、動物のサイズや骨格の成長が終わった時期など手術適期があるので、獣医師とよく相談する必要があります。

 

・大腿骨頭切除関節形成術
大腿骨頭切除関節形成術は文字通り、大腿骨頭部分の切除を行い、大腿骨と骨盤の接合部における摩擦が生じる部分を取り除くことで有意な疼痛減少が認められます。大腿骨と骨盤との接合部分は柔軟な瘢痕組織に置き換わる(偽関節)ことで足をよりよく使用することができます。術後にはしっかりとしたリハビリを行うことで術後の運動機能の改善に結びつきます。

 

股関節形成不全の好発犬種

 

ブルマスチフ、ニューファンドランド、セント・バーナード、アイリッシュ・セッター、イングリッシュ・シープドック、ゴールデンレトリーバー、ブルドッグ、パグ、フレンチ・ブルドック、ラブラドール・レトリバー、ジャーマン・シェパード、バーニーズ・マウンテンドッグなど

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