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変性性脊髄症の原因、症状、治療法

2019.07.09

変性性脊髄症のまとめ

変性性脊髄症(Degenerativemyelopathy:DM)とは、四肢の麻痺を起こす進行性の疾患で、最終的に呼吸が止まってしまう病気です。はっきりとした原因がわかっていませんが、SOD1(スーパーオキシドデスムターゼ1)というタンパク質をつくる遺伝子の変異が関係していると考えられています。

変性性脊髄症ではまず後ろ足の異常が認められ、爪を擦る、ふらつくなどの症状が現れます。3年ほどの経過で進行し、後肢の麻痺から前肢の麻痺が生じ、自力での排泄も出来なくなります。呼吸にも影響がおよび、最終的には呼吸が止まってしまいます。痛みは伴いません。

残念ながら現在この疾患に対する根本的な治療法はないため、麻痺の状態にあわせて対症療法を行います。また生活の質を少しでも維持・向上するために理学療法を行います。それにより歩くことが出来る期間を延ばせることが示唆されています。

変性性脊髄症とは

 

変性性脊髄症とは、高齢期に徐々に進行する脊髄の病気で、四肢の麻痺を起こし、最終的に呼吸が止まってしまう病気です。これだけ聞くととても怖い病気にきこえますが、それにしてはあまり聞きなれない病名なのではないでしょうか。それについてはこの記事に後述します。この病名を聞いた時に、“変形性脊椎症”という言葉が思い浮かんだ人もいるかもしれません。これらの病名は似ていますが、内容は全く異なります。

 

・ 変形・・・形を変えること
・ 変性・・・物事の性質がかわること
・ 脊椎・・・いわゆる背骨。骨自体を意味する
・ 脊髄・・・背骨の脊柱管と呼ばれる空間通る神経のこと
という意味をそれぞれ示しています。

 

つまり、
・ 変性性脊髄症・・・神経の状態、性質がかわること
・ 変形性脊椎症・・・背骨の形がかわること
となります。
このように単語を分けて考えるとわかりやすくなりますね。

 

変性性脊髄症の原因

 

はっきりとした原因がわかっていないのが現状です。過去には曲索(神経の細胞が情報を送るための構造物)変性、免疫介在性疾患(自分の免疫が自分の体に反応して起こる病気のこと)、遺伝性疾患、代謝性疾患(栄養やビタミンの欠乏など)などの説もありましたが、はっきりとした結論に至っておりません。

 

しかし、2008年にミズーリ大学の研究グループにより、変性性脊髄症を発症している犬ではSOD1というタンパク質をつくる遺伝子に変異が認められるということが確認されており、発症にはこの変異が関係している可能性が高いと考えられています。SOD1と呼ばれるタンパク質は体内で生じた活性酸素による酸化から身体を守る働きをしていると考えられています。この遺伝子変異は、人では家族性筋萎縮性側索硬化症ALSという病気を引き起こすことが知られています。

 

生じやすい犬種や年齢

 

最初はジャーマン・シェパードで報告されています。現在では他の犬種でも報告はされていますが、とくにウェルシュ・コーギーでの発生も認められています。これらの犬種で確認されることが多く、そのためかジャーマン・シェパードとウェルシュ・コーギーを飼っている方の中で、この病気のことを知っている人は比較的多いのではないでしょうか。逆に他の犬種を飼っている方には馴染みのない病気かも知れません。
この病気は高齢になって生じることがほとんどであり、日本でよく見られるウェルシュ・コーギーでは10歳以降で生じることが一般的です。

 

変性性脊髄症の症状

 

変性性脊髄症では腰のあたりの脊髄からはじまり、ゆっくりと進行します。病気の初期には後ろ足の異常が認められ、

・ 爪を擦る、歩く時に爪を擦る音がする
・ ふらつく、後ろ足が交差する
・ 足の甲をついて立っている(ナックリングといいます)

といった症状が現れます。

 

この時点で異常に気がついて病院へ行く飼い主様も多いのではないでしょうか。

 

ここから徐々に後肢の麻痺や筋肉量の低下が進行してくると

・ すぐに座り込む
・ 後ろ足が立たない、お尻を擦って歩く
・ 尿や便を漏らしてしまう。自力で排尿排泄が出来ない

となり、そこから更に進行すると後肢の症状と同様な症状が前肢にもみられるようになります。

 

前肢にまで症状が進んでくると、

・ 上体を支えることができず横たわる
・ 声がかすれる
・ 呼吸が荒い
という変化が生じ、首の脊髄での変性の進行により最終的には呼吸が止まってしまいます。

 

これらの変化は3年ほどかけて進行することがほとんどですが、なかにはそれより経過が早い場合も遅い場合もあります。この病気は痛みを伴わないことも特徴です。

 

変性性脊髄症の診断方法

 

この病気はまだ不明なことも多く、確定診断を行うには脊髄の組織の一部をとって評価することになります。しかし、もちろんそのようなことを生前に行うことは現実的ではありません。そのため、経過や検査により病態を確認し、原因を絞っていくことになります。

 

・問診
 どの様な症状なのか、いつから症状があるか、痛そうか、などを飼い主様から確認をとります。

 

・触診、神経学的検査
触診は病気にかかわらず一般的な検査ですが、その際に痛みの有無や爪の様子なども確認します。神経学的検査とは体の反射や反応をみて、神経のどこに異常が起きているのか確認する検査です。脚気の検査で膝の下を叩くのは皆様もよくご存知だと思います。あれは膝蓋腱反射とよばれるものを確認する検査で、神経学的検査の1つになります。

 

・レントゲン検査、CT検査、MRI検査
それぞれの画像検査を組み合わせて、脊椎・椎間板・脊髄の状態を評価します。CTやMRIは人と違い全身麻酔をかけて検査を行います。骨折、脱臼、腫瘍、梗塞など脳や脊髄の他の病気の除外や、、ウェルシュ・コーギーでよく見られる椎間板ヘルニアがないか、ということを確認します。異常所見が見つからなければ、画像で確認できる疾患は否定的ということになります。

MRI検査は、脊髄実質内の描出に優れた検査であり、機能的異常を検出するものではありません。つまり、変性性脊髄症の診断の際は、他の病気がないことを確認していきます。

 

・血液検査
一般的な血液の検査で、神経に異常を起こす様な変化がないか確認します。また、外部に委託することで前述したSOD1遺伝子を検査することができます。SOD1遺伝子は接合体というペアの形で存在し、変異したSOD1遺伝子同士がペアになっている場合、変性性脊髄症を発症し得ると考えられます。

 

上記の検査を複合して変性性脊髄症の診断を行います。中には変性性脊髄症と他の疾患を一緒に生じている場合もありますので、他の疾患が見つかっても変性性脊髄症が完全に否定できるわけではありません。

 

変性性脊髄症の治療法

 

残念ながら現在この疾患に対する治療法は確立されていません。症状の進行にあわせて対症療法を行うことになります。

 

・ 後肢が弱くなってくると足先を擦って傷になることがありますので、足先にカバーをするなど対応を行う。
・ 後肢が立てなくなると車椅子を使用する。
・ 排尿が困難になると腹部を圧迫するなどして補助をする。
・ 前肢も立てなくなり横になったままになると動けなくなるため、定期的に体位を変える。
・ 食事の時に頭を少し高くして誤嚥を防ぐ。

 

などこれらが全てではありませんが、このようなケアが必要になってきます。

 

また、理学療法(リハビリ)は、自力で歩行が出来る期間をのばせることが示唆されています。生活の質を維持するためにも我々は積極的に理学療法を行うことをお勧めしています。ただし、椎間板ヘルニアなどを併発している場合、無理に理学療法を行うと悪化する可能性もあります。理学療法を早期にはじめるためにも、検査を行い他の疾患を除外することが大切になります。

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