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犬の内側鉤状突起分離の原因、症状、治療法について

2019.07.09

内側鉤状突起分離のまとめ

内側鉤状突起分離とは、肘の関節の骨のひとつ「尺骨」にある突起状の構造である「内側鉤状突起」の一部が、何らかの原因で割れたり、骨の破片として分離してしまう病気です。

肘の関節の中に骨の破片が挟まっているような状態になるので、肘の曲げ伸ばしのときに痛みが出たり、前足をかばって歩いたりします。この病気は自然に治癒はしませんので、割れた内側鉤状突起を手術で摘出することが一般的です。手術後も関節炎は進行してしまうので、過度な運動は避けたり、体重を増やしすぎないようにコントロールしたりすることが大切です。また、消炎鎮痛剤の併用も有効です。

内側鉤状突起分離とは

 

「内側鉤状突起(ないそくこうじょうとっき)」…聞きなれない言葉ですよね。この正体は、肘の関節の骨にある突起状の構造の名前です。肘の関節の骨には、以下の3種類の骨が存在しています。

 

① 橈骨(とうこつ):二の腕の骨のひとつ。

② 尺骨(しゃっこつ):二の腕の骨のひとつ。いわゆる「肘」の部分はこの骨です。

③ 上腕骨(じょうわんこつ):肘から肩にかけての骨。

 

このうち、内側鉤状突起があるのは②「尺骨」です。

 

犬の前十字靭帯損傷模式図

 

 

つまり「内側鉤状突起分離」とは、この尺骨の突起部分の一部が何らかの原因で割れて、その破片が肘の関節の動きを邪魔したり、周りの骨にぶつかってダメージを与えたりしている状態というわけです。

 

ちょっと想像してみてください。自分の関節の中に小石が挟まっていたら…きっと関節を曲げ伸ばしするたびに違和感や痛みが出そうですよね。「内側鉤状突起分離」は、まさにそのような状態というわけです。

 

特に成長期の大型犬に多くみられる病気です。

ラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバー、バーニーズマウンテンドッグ、ロットワイラー、ジャーマンシェパードなど大型犬の子犬を迎え入れるときには頭の隅に留めてみてください。 もちろん、成長期を過ぎてからも症状自体は続き、多くの場合悪化していくので注意が必要です。

 

また、一口に「割れる」と言っても割れ方の程度には差があります。ヒビが入る程度のものから完全に骨の破片として分離しきってしまうケースまで様々です。中には、ヒビが入る前段階の、骨の表面の軟骨部分の質が変化し始める初期段階ということもあります。

 

内側鉤状突起分離の症状

 

どんな関節も、滑らかに動くためには骨の表面は滑らかでないといけません。

 

内側鉤状突起が割れて分離してしまうと、その破片が関節の動きを邪魔してしまいます。また、内側状突起が完全に分離せずに割れかけの軟骨としてぶら下がっている状態でも、それが周りの骨にぶつかるときには炎症の原因となります。

 

そういった状態になると、違和感や痛みにつながるため、前足をかばって歩くようになります。あるいは、普段よりも元気がなく動き回らなくなる、といった症状で気付く場合もあります。

 

内側鉤状突起分離を放っておいた場合

 

関節の中で分離した骨の破片は、関節を曲げ伸ばしするたびに骨の表面に擦れて炎症が起こります。もともと、関節では骨どうしが擦れ合うので、骨の表面はツルツルの「軟骨」と呼ばれるクッションのような構造で守られています。分離した骨の破片はこの軟骨を傷つけ、炎症を起こし続けることになります。炎症が長期間続くと、骨の表面を守るためにカルシウムなどが不規則に集まり、骨の表面はザラザラになっていくのです。

 

ザラザラになった骨どうしでは、関節本来の滑らかな動きは失われていきます。つまり、長期的にみても関節の動きは徐々に悪くなっていくというわけです。

 

内側鉤状突起分離の原因

 

外傷などでも起こる可能性はありますが、内側鉤状突起が割れてしまう主な原因は、「遺伝」と言われています。大型犬種に多いのは遺伝が原因だからなんですね。

 

少し詳しい話になりますが、遺伝により以下のような骨の特徴が表れる結果として、内側鉤状突起が割れやすい原因になると言われています。

 

・橈骨と尺骨の成長速度が違うせいで成長期に肘の関節にアンバランスな力がかかる

・肘の関節を構成する骨の形に異常があり、滑らかな関節を形成しづらい

・内側鉤状突起に栄養を与える血管の成長に異常があり、内側鉤状突起が分離しやすい

 

いずれにしても、診断が確定した場合には、そのワンちゃんの子どもを取りあげるのは我慢する方が望ましいと言えます。

内側鉤状突起分離の診断方法

 

内側鉤状突起は肘の関節内の骨の密集したエリアにあるため、レントゲン検査では様々な角度からの撮影が必要です。それでも、ふつうのレントゲン撮影だけだと骨が重なって写ってしまい、診断が難しいことが多いのです。

 

そこで、CTによって立体的に撮影することで、診断の精度が上がります。

 

また、関節鏡といって、関節の中に挿し込むことのできる細長いカメラがあります。これを使って映像によって確認することも、診断の大きな助けになります。

 

CTや関節鏡は、いずれも安全に実施するために全身麻酔が必要な検査です。全身麻酔をかけられるかどうかは体調や持病によっても異なるので、事前の検査などもしっかりと行う必要があるでしょう。

 

内側鉤状突起分離を手術による治療法ならびに手術後のケア

 

手術による治療の目的は、割れた骨の破片を除去することです。痛みや炎症の原因になっているのが割れた内側鉤状突起なので、まずはそれを摘出してしまおうというわけです。ひいては長い目で見ても、関節炎の進行を抑える効果も期待できます。

 

手術の方法としては、肘の関節を直接切開する方法のほか、関節鏡による手術が可能な場合もあります。

 

また、そもそもの原因が「肘の構造のアンバランス」に起因しているとされているので、同じ病気を持っていないワンちゃんと比べれば、手術後も関節炎の進行は健康な子よりも早いと言われています。関節炎の進行を予防する目的で、肘の構造のアンバランスを矯正するための手術を実施する場合もあります。

 

いずれにしても、手術後も関節炎をできるだけ悪化させないように、過度な運動や体重の増加には注意が必要です。

 

また将来、長期的な関節炎、いわゆる「慢性関節炎」に移行していくと、症状は日によって波が出るようになります。つまり、歩き方の良い日もあれば悪い日もあるということです。歩き方が特に悪い日には、炎症や痛みを抑える飲み薬(消炎鎮痛剤)の力を借りるのも、長く関節炎と付き合っていく秘訣です。また、将来進行してくる関節炎にはPRP療法も有効と考えられます。(→PRP療法とは

 

もちろん、飲み薬を継続するときには定期的に検診も受けましょう。定期的な検診は、ほかの病気を見逃さないためにも大切になってきます。

 

※PRP療法とは

耳慣れない言葉だという方も多いかと思います。 PRPとはPlatelet Rich Plasmaの略号で、「多血小板血漿」を意味しています。

 

血小板は血液の中に存在している成分のひとつで、かさぶたを形成して出血を止める役割があります。それだけでなく、血小板は様々な成分を作っており、その成分によって傷口の治癒が促されているのです。

 

PRP療法では血小板の持つこの治癒を促進する成分を利用して、組織の修復を早めるのが狙いです。人間でもスポーツ選手が靭帯を痛めたときや、高齢の方の膝の変形性関節炎などに対してこの治療法が普及してきています。

 

内側鉤状突起分離を手術以外で治療する方法

 

残念ながら、ヒビが入ったり割れたりした骨の破片を手術で取り出さない限り、根本的な治療にはならないのです。どうしても手術が難しい場合、過度な運動を控えたり、体重を増やしすぎないようにフードの量をコントロールしたりして、付き合っていくことになります。

 

そのほか、関節炎の進行後には、手術をする場合のケアと同様に、消炎鎮痛剤やPRP療法も選択肢となります。もちろん手術を行わない場合には、手術で割れた内側鉤状突起を摘出できた場合に比べて関節炎の進行は早く、また重度になると言われています。

 

また、関節炎が進行してから手術をしても、すでに生じている関節炎自体を治すことはできません。あくまで、それ以降の関節炎の進行を止めることが目的となります。長期的な生活のことも考えながら検討していく必要があるでしょう。

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