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犬と猫の椎間板脊椎炎の原因・症状・治療について

2019.07.09

椎間板脊椎炎のまとめ

椎間板脊椎炎は、椎間板及び椎体における感染性・炎症性疾患です。発症すると後肢の機能障害や頚部痛・腰部痛など椎間板ヘルニアに類似した症状が生じますが、その病態や治療は全く異なるので注意が必要です。多くの場合、椎間板脊椎炎は内科的な治療で改善することが多いとされていますが、重度となった場合には背骨の骨折や脱臼が起こってしまい、外科治療が必要となることがあります。

椎間板脊椎炎とは

 

椎間板脊椎炎(ついかんばんせきついえん)は、脊髄の周囲組織である椎間板や椎体に細菌や真菌(いわゆるカビ)が感染し、炎症を起こす病気です。脊髄の周囲に怪我や傷がなくても、泌尿器や口腔内、心臓といった他の部位からの感染経路が多いとされています。明らかな原因はわかっていませんが、もともとこの周辺の血流がゆっくりであることとの関連が指摘されています。また、免疫抑制剤による治療を受けている動物や、全身状態が悪くて抵抗力が落ちている動物では特に注意が必要であると考えられます。

 

なお、よく似た名称の違う病気として、変形性脊椎症(へんけいせいせきついしょう)・変性性脊髄症(へんせいせいせきずいしょう)という疾患があります。それぞれ全く異なる病気ですので、混乱しないようにご注意ください。

 

椎間板脊椎炎の症状

 

最も一般的な症状は罹患した脊椎周辺の疼痛(痛み)ですが、体のどこを触っても痛がる、いわゆる知覚過敏が生じることもあります。また、このほかにも活動性の低下や発熱、進行した症例では手足のふらつきなどの症状が認められます。脊椎の疼痛は犬で比較的多く遭遇する椎間板ヘルニアと類似の症状であり、その鑑別に注意が必要です。

 

椎間板脊椎炎の原因

 

Staphylococcus spp.が一般的に多いと言われています。直接背骨の周辺に怪我をして感染がおこるのではなく、他の部位(泌尿器や口腔内、心臓)での感染源が、血流に乗って患部に達すると考えられています。そのため、慢性的な感染症に罹患している子や、全身的な抵抗力が落ちている子は注意が必要であると考えられます。

 

椎間板脊椎炎の診断方法

 

病態が進行するにつれて、特徴的なX線所見を呈すようになるため、ある程度進行した症例では単純X検査で診断が可能です。このような症例では、椎体の端の部分(椎体終盤)の骨が溶け、椎間腔(背骨と背骨の隙間)が広がり、さらに周辺には骨棘と呼ばれる新生骨が生じます。

 

一方、病態の初期、特に感染の成立から2週間程度まではこのような変化が明らかでないことがあり、診断が難しいことがあります。そのような場合には、CT検査やMRI検査を実施することにより単純X線検査よりも早期に診断を下すことが可能です。

 

感染症の診断としては一般的に血液検査における白血球数の増加が指標となりますが、本疾患では正常であることが多く、注意が必要です。

 

椎間板脊椎炎の治療法

 

感染症治療として抗生剤または抗真菌薬の投薬、及び痛みに対しての消炎鎮痛剤の併用をすることが一般的です。

 

抗生剤は感染源から特定された細菌に応じたものを使用するのが理想的ですが、これらの検査結果が出るまでには時間がかかります。また残念ながら、原因となった菌の特定が困難であることも少なくありません。そのため、試験的な抗生剤治療(有効な可能性が高い抗生剤を試しに使用してみること)を行い、その効果を見ながら手探りで適した薬剤を選択していく必要が生じることもあります。抗生剤については、早い段階(6週間以内)に中止をしてしまうと再発が多いとされ、それ以上(6〜8週間)の継続投与が推奨されています。抗生剤は勝手に飲むのをやめてしまうことが、再発率の上昇、耐性菌の獲得につながりますので必ず獣医師に確認の上抗生剤の『やめ時』を判断しましょう。

 

さらに、炎症に伴って新しくできた骨が神経を圧迫する場合や、骨が壊れて不安定になり椎間板ヘルニアを併発した場合には、椎間板ヘルニアと類似の外科治療が適応となることがあります。また、骨の破壊が進んで椎間(背骨と背骨の間)が重度に不安定になった場合、さらには脱臼が起きてしまった場合には椎体固定術(背骨と背骨を金属やセメントを用いて固める手術)も検討となりますが、予後には注意が必要となります。

 

飼い主様ができる応急処置

 

椎間板脊椎炎で私たち飼い主が、覚えておかないといけないことは、椎間板ヘルニアと似ている症状であることと全身性の症状、つまりなんとなく元気がない、少し熱っぽい、体重が減っているなどの症状から診断にMRIが必要な神経疾患のことがあるということです。
ご自宅での様子のみから椎間板脊椎炎を疑うことは難しく、適切な応急処置は困難と考えられます。どこかわからないけれども痛がる、ふらつく、元気や食欲がないといった症状が認められた場合には、早めに動物病院に相談しましょう。

 

椎間板脊椎炎を防ぐ方法

 

残念ながら、注意して飼育管理をしても椎間板脊椎炎の発生を完全に防ぐことは困難であると考えられます。ただし、他の部位の感染症が背景にあることが多いことから、口腔内を清潔に保つことや各種の感染症を放置しない(外耳炎や膀胱炎)ことなどは対策として挙げられるでしょう。

 

椎間板脊椎炎になりやすい犬種

 

ジャーマンシェパード・ドッグ
グレート・デン
※これらは海外でのデータであり、本邦ではその他の犬種で起こることも少なくありません

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