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犬の椎間板ヘルニアの原因・症状・治療法について

2019.07.09

椎間板ヘルニアのまとめ

椎間板ヘルニアは、ミニチュアダックスフントに代表される軟骨異栄養性犬種に最も多くみられる脊髄疾患です。ひとたび発症すると痛みや麻痺を引き起こし、重症になると排尿ができなくなます。

昨日まで元気に歩いていたのが急に歩けなくなる怖い病気ですが、適切な診断と治療を行うことで、多くが歩くことが可能になるのも事実です。なかには、ごく稀ですが、歩行機能が回復できない場合や症状が進行する脊髄軟化症に陥ってしまうこともあります。椎間板ヘルニアを正しく理解して、より良い診断・治療の選択肢の参考になればと思います。

椎間板ヘルニアとは

 

椎間板は、線維輪という外側の層と髄核というゼラチン様物質で構成されています。椎間板の機能は、脊椎と脊椎の間にあるクッションの役割を持ち、ショックアブソーバーとして作用します。背骨のことを脊椎といい、脊椎が連なり脊髄の通り道である『脊柱管』を形成します。椎間板が変性すると、衝撃吸収能力の低下により、変性した椎間板が脊髄方向にとびだすことで脊髄の圧迫を引き起こします。この本来あるべき場所から飛び出すことを「ヘルニア」といい、椎間板が脊柱管内に飛び出すことを「椎間板ヘルニア」といいます。

 

椎間板ヘルニアは、犬でとても多く発症する脊髄疾患です。また、犬だけではなく猫でも時折見られることがあります。猫では、高齢でみられ、短毛のミックスの猫、ブリティッシュショートヘアー、ペルシャに多いと言われ、首よりも腰のヘルニアのほうが多いです。

 

椎間板ヘルニアの原因

 

椎間板ヘルニアは、椎間板の変性が原因となっています。椎間板の変性とは、髄核から水分が消失し弾力性を失うことです。加齢に伴う場合と、軟骨異栄養性犬種のように比較的若い年齢に起こる場合があります。

 

軟骨異栄養性犬種には、ダックスフンドやウェルシュコーギー、パグ、ペキニーズなど短い手足と長い胴体を特徴とする犬種が含まれ、遺伝子的には以下の犬種が挙げられます。

 

バセットハウンド、ビーグル、ビションフリーゼ、ウェルシュコーギー、キャバリアキングチャールズスパニエル、チワワ、チャイニーズクレステッド、アメリカンコッカースパニエル、フレンチブルドック、ジャックラッセルテリア、ペキニーズ、トイプードル、シーズーなど
これらの犬種では、1歳で全髄核の75~100%に変性が起こるといわれています。つまり、1歳ですでに高齢の椎間板になってしまっているというイメージです。

 

椎間板ヘルニアのタイプは、椎間板を構成する成分のうち、どの部分が飛び出たかによってタイプ分類をすることができます。1つはハンセンI型といい、前後方向の圧力を分散する髄核の変性・突出(内側の部分)が原因になるものです。もう1つは、ハンセンII型といい、椎間板の大部分を構成する(外側の部分)線維輪の変性・突出が原因になるものです。

 

椎間板ヘルニアのタイプ分類

 

・ハンセンI型

ハンセンI型の椎間板ヘルニアは、2歳以上の小型犬(特に軟骨異栄養症の犬)で最も多いと言われています。症状は急性かつ突発的におこり、突然歩けなくなるといった印象が多いです。

 

通常の椎間板は弾力性があるので、走ったり体をねじったりする脊椎の柔軟な動きを可能にします。ひとたび変性が始まると髄核は硬くなり、弾力性がなくなり、ジャンプなどの衝撃をきっかけに椎間板に強い負荷がかかり、髄核が脊柱管内に飛び出します。

 

この飛び出した椎間板(髄核)が脊髄に影響を及ぼし、脊髄を圧迫します。どれだけの量の椎間板が脊髄を圧迫しているか、どのくらいの勢いで椎間板物質が飛び出したかによって重症度が変わってきます。これらの圧迫の程度によって症状は異なり、痛みだけの場合や、足が全く動かなくなる麻痺まで様々です。より重度な症状になると、痛みの感覚がなくなります。

 

・ハンセンII型

ハンセンII型椎間板ヘルニアは、ヒトの椎間板疾患に類似しており、軟骨異栄養症以外の高齢の犬に発生することが多いです。

 

椎間板を構成する成分の線維輪の突出が認められるタイプの病態をさします。症状は、ハンセンI型椎間板ヘルニアと同様ですが、ほとんどはゆっくりじわじわと進行していきます。
ハンセンII型は、内科治療に反応しにくく、外科治療後の症状の改善する時間経過も長くかかると言われています。高齢の犬における慢性脊髄疾患は、他の病気、特に命関わる腫瘍性疾患などとの鑑別が重要となります。

 

椎間板ヘルニアの症状

 

椎間板ヘルニアの症状は、発症部位により異なります。首の椎間板ヘルニアを頭部椎間板ヘルニア、腰の椎間板ヘルニアを胸腰部椎間板ヘルニアといいます。頭部椎間板ヘルニアは、前足と後足の両方に麻痺を引き起こす可能性があります。また、首の痛みのみを起こす場合もあります。

 

頸部痛の症状は、他の病気と間違われてしまうことも多く、

・頭を下にうなだれる様子

・動くことができず震えている

・目だけで人や物を追うようになる

・段差を嫌がる

・首のあたりの皮膚をピクピクさせる

などがあげられます。

 

一方で、胸腰部椎間板ヘルニアは、後ろ足のふらつきや麻痺、自分の思った通りに排尿ができないなどの症状を引き起こす可能性があります。

 

腰が痛い場合には、

・背中が丸くなり、こわばる

・抱っこした時にキャンという(抱きキャン)

などがあげられます。

 

胸腰部椎間板ヘルニアの麻痺の程度は、5段階にグレード分類されています。このグレード分類をもとに手術で歩行可能になる一般的な割合や内科療法では改善しない割合などを考慮し、治療方法を選択していきます。

 

グレード1:背中の痛み
グレード2:両後肢ふらつき
グレード3:両後肢不全麻痺、なんとか歩けてはいる
グレード4:随意運動の消失、浅部痛覚の消失、歩けない
グレード5:深部痛覚の消失

 

稀ですが、痛みの感覚を完全に消失したグレード5の犬の5~10%で進行性脊髄軟化症(死に至る脊髄麻痺)を発症することがあります。治療法はなく、進行することにより前足の麻痺、最終的に呼吸に関与する神経に影響を及ぼすため、亡くなってしまいます。重度の椎間板ヘルニアに続発し起こる、この進行性脊髄軟化症は、発症してから1週間以内に、症状が進行していくと言われています。

 

椎間板ヘルニアの診断方法

 

椎間板ヘルニアは、前述したように犬種や臨床徴候に基づいて判断されることもありますが、確定診断には麻酔を使用したCT画像検査やMR画像検査が必要です。X線画像は、麻酔をかけないで撮影できるという利点があります。

 

X線画像は骨折や脱臼、椎間板脊椎炎などの病変を確認することは得意ですが、外科手術に必要とされる椎間板物質の正確な立体像、位置、数を確認することはできません。CT検査やMRI検査は診断・治療計画に非常に有益となりますが、全身麻酔を必要とする欠点があります。

 

椎間板ヘルニアの治療法(保存療法)

 

首や背中の疼痛のみの動物に関しては、保存療法による治療選択が可能となります。どちらの椎間板へルニアに対しても足先の痛みの感覚を失った場合は緊急手術の適応となります。椎間板ヘルニアの重症度が高い場合には保存療法での完治は非常に困難とされています。保存療法の欠点は、ふらつきや痛みが完全になくなる前に激しい運動をすると再発率が高く、再発した場合にはもともとの症状よりも悪化する傾向にあります。利点としては、安価で、麻酔を避けることが挙げられます。

 

管理方法として最も重要な点は、運動制限すなわちケージレストです。激しい運動や椎間板への衝撃を抑えることで、椎間板物質の突出を制限し、脊髄を修復へと向かわせます。最近では、動物用のコルセットも開発されており、保存療法の一助となることがあります。コルセットは、締め付けるといったイメージを持つ方が多いですが、腰の安定化を図るための支える洋服です。コルセットを着用していれば必ずしもうまくいくわけではありませんが、安静の難しいような性格の動物や仕事や外出などで見ていられない時の補助器具として使用することが可能です。

 

保存療法を実施する場合には、手遅れになるような症状を見逃さないために麻痺の悪化徴候がないか、常に確認する必要があります。

 

椎間板ヘルニアの治療法(外科療法)

 

保存治療にてうまくいかない場合やもともとの重症度が高い場合には外科手術を選択する必要があります。手術を受けることで歩行機能の回復・疼痛緩和を期待できます。特に、足先の痛みを感じなくなっている場合には緊急手術の適応であり、早急な対応が功を奏する可能性があります。

 

椎間板ヘルニアの手術方法

 

一般的な胸腰部椎間板ヘルニアの手術では、片側椎弓切除術といわれる術式になります。脊椎の一部の骨を削って、神経の束である脊髄を優しく露出し、椎間板物質を摘出します。圧迫を受けている脊髄は、背側(上)に押されているのが確認でき、色も変化しています。椎間板物質を摘出することで、正常な位置に脊髄が戻ります。ルーペや顕微鏡を使い、脊髄の周りを慎重に操作していく繊細な手術です。

 

頸部椎間板ヘルニアの場合は、ベントラルスロット術、背側椎弓切除術、椎体固定術を組み合わせながら手術を計画します。ベントラルスロット術は、頸部椎間板ヘルニアで一般的に行われる手術です。喉の方向から皮膚を切開し、首の脊椎(頸椎)に到達するという術式になります。胸腰部椎間板ヘルニアと同様に筋肉をつけ、腹側の頸椎に到達した後、病変部位の椎間板領域に小さな穴を作成し、圧迫している椎間板物質を摘出する術式になります。

 

背側椎弓切除術は、脊椎の背側にある棘突起を切除していく術式です。頭の後ろから肩甲骨の辺りまでの背中の皮膚を切開し、筋肉を分けながら頚椎に到達します。より広く、連続して骨を削ることが可能となり、多発した頚椎ヘルニアなどに適応します。

 

椎体固定術は、頚椎の動揺による脊髄圧迫が疑われる場合、または脊椎の不安定性が高い場合に他の手術と組み合わせて行われることがあります。体の大きさやインプラントのサイズによって、プレートまたは骨セメントを使って脊椎の固定を行います。

 

頸部椎間板ヘルニアの外科治療は、約90%で痛みの改善、歩行機能の改善が期待できます。

 

椎間板ヘルニアの理学療法

 

手術後の歩行機能回復を早めたり、麻痺による他の筋肉への負担を軽減させるため、飼い主さんと一緒にリラックスさせながら行なっていきます。

 

歩くための問題点を一つずつ改善していきながら、家でも行えるリハビリ指導をしていきます。私たち人間もそうですが、起き上がるため、立つため、座るため、そして歩くためには、たくさんの筋肉と神経が連動して綺麗なスムーズな動きになっていきます。何気ない行動ができなくなり、それを訓練していくのですから、1回のリハビリでの改善はなかなか期待できません。毎日のリハビリを楽しく行なって、少しずつ、でも1日も早く歩く楽しさを思い出してもらえたらと思います。

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