愛犬・愛猫が整形外科・神経外科の病気と診断されたら
整形外科・神経外科の特化型動物病院が運営する飼い主様向け医療サイト
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
2019.07.09
キャバリアのまとめ
イギリス産の小型犬の一種でスパニエル種に分類されます。日本では一般的にキャバリア、キャバと略されていることがあります。名称の「キャバリア」とは騎士という意味で、「キングチャールズ」とはイングランド王チャールズ1世・チャールズ2世がこの犬を溺愛したことによるものです。
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの身体的特徴
体重は5-8kg、体高は30-33cm。大きな目、大きな垂れ耳、平坦な頭頂、絹糸のような被毛を持ち、生後2-3年目程度から飾り毛が足・耳・胸などに発達します。
性格は優しく穏やかで、遊び好きで愛情深く物静かとされています。他の犬やペットや見知らぬ人に対しても社交的で、スキンシップをしたりするのが好きで、ひとに触られるのを好みます。
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルで多くみられる病気として心臓疾患(僧帽弁閉鎖不全症)、外耳炎、白内障、短頭種気道症候群などが多くの飼い主さんに認知されていますが、膝蓋骨内方脱臼、股関節脱臼、前十字靭帯の損傷、脊髄空洞症が好発疾患として知られています。
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルが発病しやすい骨・関節の病気
キャバリアに多い病気として、僧帽弁閉鎖不全症、角膜ジストロフィー、アトピー性皮膚炎、難聴などが挙げられ、歩き方の異常として膝蓋骨脱臼、股関節形成不全、前十字靭帯断裂、キアリ様奇形、脊髄空洞症、小脳梗塞などがあります。
膝蓋骨脱臼
日本において、トイ・プードル、柴犬、ポメラニアン、ヨークシャー・テリアにおける膝蓋骨脱臼の有病率は高いと報告されており、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルでも発症が認められます。アメリカの報告では、キャバリアの有病率は20%と高いです。
膝蓋骨(しつがいこつ)は、ひざにある「お皿」のことで、太ももの骨の「溝」の上にあります。膝蓋骨脱臼とは、この「お皿」が「溝」から外れてしまう病気のことです。この「お皿」には太ももの骨の前側にある筋肉(大腿四頭筋)がくっついていて、さらに靭帯で脛の骨(脛骨)につながって「伸展機構」をつくっています。この「伸展機構」は、膝を伸ばす、つまり、立った姿勢を維持するのにとても大事な役割を担っているので、「お皿」が外れてしまうと、様々な問題が生じます。「お皿」が外れてしまうことで、痛がったり、歩き方がおかしくなってしまう場合には、手術を考える必要があります。
股関節形成不全
股関節とは大腿骨頭(ボール)と寛骨臼(ソケット)のはまりが悪く、関節の緩みが成長とともに悪化する病気です。股関節の緩みによる痛みは、4〜12ヶ月齢で発症し、年齢とともに慢性関節炎に悩まされることが多いです。
股関節形成不全の原因として70%が遺伝的要因で30%が環境要因(体重、栄養、運動量など)と言われています。ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ジャーマンシェパードなどは遺伝性疾患として広く知られていますが、小型犬での罹患率が意外と多いことはまだまだ獣医師をはじめ多くの飼い主にも認知されていないことです。
前十字靭帯断裂
前十字靭帯とは膝の関節にある靭帯のひとつです。膝を曲げながら後ろ足に体重をかけたときに膝の関節を支える役割を果たしています。前十字靭帯を損傷すると、靭帯の損傷の程度によりますが、膝の関節の中で炎症が生じて痛みが出たり、後ろ足に体重をかけたときに膝の関節をうまく支えられなくなったりするため、後ろ足をかばいながら歩くようになります。また、靱帯の近くにある半月板という構造も損傷し重症化することがあります。靭帯の損傷は自然には治癒せず、多くの場合、炎症や痛み、あるいは関節にうまく力をかけられない状態は消えず、後ろ足をかばう生活が続きます。前十字靭帯は膝の関節にある靭帯のひとつです。膝を曲げながら後ろ足に体重をかけたときに膝の関節を支える役割を果たしています。要するに、前十字靭帯は脛骨に対して前方向にかかる力を支えているため、その靭帯の支えがなくなると、後ろ足に体重をかけたときに脛骨が前方に滑り出すようになり、体重を支えられなくなってしまうのです。
キアリ様奇形と脊髄空洞症
品種改良の結果、頭蓋骨が脳の大きさに対して小さいため、脳の一部が後頭骨から押し出されてしまう病気をキアリ様奇形と言います。頭から首にかけて脳脊髄液の流れが阻害され、脊髄の中に液体がたまる病気を脊髄空洞症と言います。他の犬種では珍しい病気ですが、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの最大で70%が脊髄空洞症と診断されているという報告もあります。鼻が短く頭が広い犬種であるブリュッセルグリフォンやチワワも好発犬種です。
頭の後ろを触るのを嫌がったり、首輪の後ろを気にしたり、しきりに足で頭の後ろを掻く動作をファントムスクラッチといい、知覚過敏、痛みなどが原因です。皮膚科疾患と混同されることも多く、適切な治療が遅れてしまうこともあります。症状は徐々に進行する場合や、突然悪化し、四肢の麻痺がみられる場合など様々な経過をたどります。無症状の場合もありますが、75%のキャバリアで症状が進行すると言われています。
診断にはCT検査による頭蓋の形態異常の検出やMRI検査による脳・脊髄の評価が必要になります。
小脳梗塞
小脳梗塞は、血栓によって小脳の領域への血流が突然遮断されることにより発症します。顔が傾いてしまったり、ふらついたり、失神のように倒れたりすることもあります。
原因として、心臓病や血小板の形態異常などが考えられています。また、キアリ様奇形を伴っている場合もあります。
診断にはCT・MRI検査が必要になります。
変性性脊髄症 DM
変性性脊髄症は慢性進行性の脊髄障害であり、治癒することはできずに跛行と後肢の麻痺を引き起こし、その後さらに前肢の麻痺へと悪化します。ヒトの筋萎縮性側索硬化症(ALS)に相当すると考えられています。ジャーマンシェパード、ウェルシュコーギー、ボクサー、チェサピークベイリトリーバー、ローデシアンリッジバック、コリーなどが好発犬種で、以前は、キャバリアキングチャールズスパニエルはDMの有病率が高いとは考えられていませんでした。しかし、2014年の研究で、SOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)酵素の変異がキャバリアキングチャールズスパニエルで確認されて以降、キャバリアでの有病率が高いと認識され始めています。
キャバリアキングチャールズスパニエルの発作性転倒
稀な病気ですが、キャバリアの常染色体性劣性遺伝として知られています。
1〜4歳で発症し、ストレスや興奮が引き金となり、足が突っ張ってしまう症状が特徴的です。うさぎ跳びのような歩き方で膝蓋骨脱臼と間違われてしまうことや、座り込むといった症状から整形外科疾患と間違われることもあります。
この病気は、BCAN「ブレビカン」という軸索伝導やシナプスの安定化に関与する遺伝子の異常が原因です。
歩き方がおかしいという飼い主さんの言葉からではなかなか診断にたどり着けない代表的な病気の1つとも言えます。気になる歩き方は、スマートフォンなどで歩く動画を撮影し、診察する獣医師に見せるよう心がけてください。